頂き小説

子豚さんより
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「裕! 部屋から出るなと言っただろう!」

天虎は声を荒げ、弟の腕を掴んだ。
彼は弟である裕兎に、「一歩も部屋から出るな」と言い聞かせていた。
しかし、裕兎は部屋から抜け出てきて、廊下を歩いているところを天虎に見つかったのだ。

掴まれている腕がぎりっと音を立て、裕兎は眉を寄せながら天虎の顔を見た。

「兄貴、大丈夫だって言ってるだろ? 俺だって戦えるし、兄貴に迷惑かけるわけには……」
「迷惑なんてあるわけないだろう! お前はあいつらに狙われている。もしものことがあったら、どうするつもりだ!」

その言葉に裕兎は言葉を詰まらせ、うなだれた。

天虎が言う『あいつら』とは、幽霊犯罪者たちのことだ。奴らはこの世に蘇るため、純潔者の血を探している。
純潔者の血を吸えば元に戻れる。そのために躍起になって探探しているはずだ。

その純潔者が裕兎だった。それが知られれば、確実に彼が狙われるのは目に見えている。

だからこそ、天虎は無理矢理にでも裕兎を……弟を守りたかった。
半ば強制的に部屋に閉じ込めて、誰の目にも止めないようにして。

だが、裕兎が顔を上げたとき、その目にはっきりと決意の色が浮かんでいるのがわかった。
彼は腕を掴んでいる天虎の手を解き、逆にその手をしっかりと握ってきた。

「兄貴、どちらにしても、俺がやらなきゃ駄目なんだ」
「だけど……」
「奴らの狙いは俺だっていうのはわかってる。だからといって、俺だけ隠れているわけにはいかないんだ。こうしている間にも、誰かの命が奪われているかもしれない……。俺は、それは絶対に耐え切れないんだ」
「裕……」

大切な兄弟が傷ついて欲しくないが故に起こした行動。裕兎が自分に怯えているというのは感じ取っていた。
けれど、それでも構わないと思っていた。

守りたい。ただそれだけだった。

そんな気持ちとは裏腹に、裕兎は戦う道を選んでいた。
人の命を大切にする彼だからこそ、幽霊犯罪者が起こす事件を止めたいと思っているのだろう。

握られた手の力が、止めても聞かないということを物語っていた。

裕兎が手を離すと、天虎も自身の手を離した。
だが、今度は弟の肩をしっかりと掴んだ。

「そこまで言うのなら止めない。だけど、これだけは忘れるな。お前に何があっても、俺がお前を守ってやる。絶対にだ」

彼が進むのならば、自分はその傍にいて守るだけだ。
誰にも傷つけさせはしない。この手で守って見せると、心に固く誓った。

「……ありがとう、兄貴」

兄の言葉に、裕兎は小さくではあるが、数日ぶりに笑ってくれた。それに感極まって、天虎は思わず裕兎のことを抱きしめた。
息苦しくなるほど強く、しっかりと抱きしめた。

天虎の体が離れ、裕兎は大きく深呼吸した。
そして、そのまま踵を返して廊下を走っていく。

「じゃあな、兄貴!」

手を振りながら去っていく弟の背中を見つめ、天虎はその場に立ちすくんでいた。

しばらくそのままでいたが、いつまでもこうしているわけには行かないと、彼もまた廊下を歩き出した。







Fin
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