1/1ページ目 「裕! 部屋から出るなと言っただろう!」 天虎は声を荒げ、弟の腕を掴んだ。 彼は弟である裕兎に、「一歩も部屋から出るな」と言い聞かせていた。 しかし、裕兎は部屋から抜け出てきて、廊下を歩いているところを天虎に見つかったのだ。 掴まれている腕がぎりっと音を立て、裕兎は眉を寄せながら天虎の顔を見た。 「兄貴、大丈夫だって言ってるだろ? 俺だって戦えるし、兄貴に迷惑かけるわけには……」 「迷惑なんてあるわけないだろう! お前はあいつらに狙われている。もしものことがあったら、どうするつもりだ!」 その言葉に裕兎は言葉を詰まらせ、うなだれた。 天虎が言う『あいつら』とは、幽霊犯罪者たちのことだ。奴らはこの世に蘇るため、純潔者の血を探している。 純潔者の血を吸えば元に戻れる。そのために躍起になって探探しているはずだ。 その純潔者が裕兎だった。それが知られれば、確実に彼が狙われるのは目に見えている。 だからこそ、天虎は無理矢理にでも裕兎を……弟を守りたかった。 半ば強制的に部屋に閉じ込めて、誰の目にも止めないようにして。 だが、裕兎が顔を上げたとき、その目にはっきりと決意の色が浮かんでいるのがわかった。 彼は腕を掴んでいる天虎の手を解き、逆にその手をしっかりと握ってきた。 「兄貴、どちらにしても、俺がやらなきゃ駄目なんだ」 「だけど……」 「奴らの狙いは俺だっていうのはわかってる。だからといって、俺だけ隠れているわけにはいかないんだ。こうしている間にも、誰かの命が奪われているかもしれない……。俺は、それは絶対に耐え切れないんだ」 「裕……」 大切な兄弟が傷ついて欲しくないが故に起こした行動。裕兎が自分に怯えているというのは感じ取っていた。 けれど、それでも構わないと思っていた。 守りたい。ただそれだけだった。 そんな気持ちとは裏腹に、裕兎は戦う道を選んでいた。 人の命を大切にする彼だからこそ、幽霊犯罪者が起こす事件を止めたいと思っているのだろう。 握られた手の力が、止めても聞かないということを物語っていた。 裕兎が手を離すと、天虎も自身の手を離した。 だが、今度は弟の肩をしっかりと掴んだ。 「そこまで言うのなら止めない。だけど、これだけは忘れるな。お前に何があっても、俺がお前を守ってやる。絶対にだ」 彼が進むのならば、自分はその傍にいて守るだけだ。 誰にも傷つけさせはしない。この手で守って見せると、心に固く誓った。 「……ありがとう、兄貴」 兄の言葉に、裕兎は小さくではあるが、数日ぶりに笑ってくれた。それに感極まって、天虎は思わず裕兎のことを抱きしめた。 息苦しくなるほど強く、しっかりと抱きしめた。 天虎の体が離れ、裕兎は大きく深呼吸した。 そして、そのまま踵を返して廊下を走っていく。 「じゃあな、兄貴!」 手を振りながら去っていく弟の背中を見つめ、天虎はその場に立ちすくんでいた。 しばらくそのままでいたが、いつまでもこうしているわけには行かないと、彼もまた廊下を歩き出した。 Fin [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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