野中 星
【〈馬毛島に滑走路〉自然と歴史を破壊するな】
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※環境・文化保護の観点から異議を唱える方のご意見
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北海道大大学院助教(保全生態学)
立澤 史朗(ﾀﾂｻﾞﾜ ｼﾛｳ)
2011.07.02[土]朝日新聞ﾖﾘ
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│馬毛島に滑走路│
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~自然と歴史を破壊するな~
鹿児島県・種子島のすぐ西に、馬毛島（西之表市）という小さな島がある。その名が６月21日、日米の外務・防衛担当閣僚会合での共同発表で挙がった。米軍空母艦載機の発着訓練を前提とした自衛隊施設候補地とされたのだ。すでに民間の開発会社が、約８平方㌔の島を十字に横切る滑走路の建設工事を始めている。
しかし、この島について国民が知らされていない事実がある。まず、非常に豊かな生物多様性だ。固有種ホソバアリノトウグサ、天然記念物のオカヤドカリ類やソテツ自生林、毎年産卵に来るウミガメ類や固有遺伝子タイプを持つメダカ、サンゴ礁……。生息する動植物は確認されているだけでも数百種にのぼる。
なかでも、この島にしかいない固有亜種マゲシカはかつて天然記念物の候補となり、島全体が鳥獣保護区に指定されている。馬毛島は陸と海の多様な生物が一体となった「命の島」なのである。
また、「歴史の島」でもある。薬となる鹿茸（ﾛｸｼﾞｮｳ＝シカの袋角）や飢饉時に貴重なソテツなどは９世紀以降、武家だった種子島家の管理の下で維持されてきた。ほかにも渡来貴婦人と目される遺体が出土した「椎ノ木遺跡」や石器類の出土など、数々の遺産が現存する。
第２次世界大戦後は小中学校もできて、往時は５００人以上の島民でにぎわった。島民らは自然と文化を守ってきた。大漁の日には教員や生徒たちも網作業に加勢するなど、そこには私たちが失った地域社会の健全な姿があった。
その島が無人島になったのは、現在大半の土地を所有するタストンエアポート社（旧馬毛島開発）が「自然を生かした海洋レジャーランド」構想を持ちかけたからで、平和的な地域振興のためならと島への思いを断ち切った人も多かった。西方に輝く馬毛島を拝んだという種子島の伝承や伝統芸能も廃れつつある。
いま行われている滑走路の工事は、島の自然と歴史を取り返しがつかないほどに破壊する行為である。測量の名目による広域の伐採、整地、埋め立ては森と川の大半を消滅させた。西之表市は林の伐採状況を把握するため、立ち入り調査を求めている。タストンエアポート社は行政や研究者の入島を受け入れるべきだ。さらに、日本政府はこのような事実をすべて、国民や米政府に広く説明しなければならない。
馬毛島はどんな島であったか、過去に何が行われ、いま、何が進んでいるのか、見つめ直すときだ。祖先の歴史を守り、その知恵と資源を子どもたちに引き継ぐ最後のチャンスである。
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