野中 星
【《佐藤 優の飛耳長目》 〔 週間「金曜日」770号〕2009.10. 9発行 ﾒﾄﾞﾍﾞｰｼﾞｪﾌ大統領が 身 を 乗 り 出した 首 脳 会 談】
〔＆〕
８月３０日の総選挙後、ロシア側が、「１９５６年の日ソ共同宣言に基づいて北方領土交渉を行なおう」というシグナルを何度か投げてきた。これに関して、日本側の一部で日ソ共同宣言が「歯舞群島と色丹島の二島返還での領土問題解決を意味する」という間違えた解釈が行なわれている。その典型が九月四日付『読売』朝刊の記事だ。
〈露、２島返還での解決求める／「鳩山氏、祖父と同じ選択を」
【モスクワ＝金子亨】インターファクス通信によると、ロシア外務省のネステレンコ情報報道局長は３日、モスクワ市内で記者会見し、北方領土問題について「（民主党代表の）鳩山氏が、ソ連との共同宣言に署名した祖父の鳩山一郎（元首相）のように正しい選択をするよう望む」と述べた。
平和条約締結後、歯舞、色丹の２島を引き渡すと明記した１９５６年の日ソ共同宣言に基づき、２島返還での解決を図るよう新政権に求めたものといえる。〉（九月四日『読売』朝刊）
┌――――――――――┐
│ 日ソ共同宣言を継承 │
└――――――――――┘
このような解釈が間違いであることを９月２３日にニューヨークで行なわれた日露首脳会談において鳩山由紀夫総理はドミートリー・メドベージェフ大統領に対して直接伝えた。
〈総理から、自分の祖父・鳩山一郎元総理が１９５６年に訪露した際には、２島引き渡しでは領土問題を解決できないということで平和条約を締結できなかった、それから50年以上経ったが、未だに平和条約が締結されていないことは両国にとってマイナス、我々の世代で領土問題を最終的に解決し、平和条約が締結されるよう大統領のリーダーシップに期待する、旨述べた。〉（外務省ＨＰ）
鳩山総理は、祖父の鳩山一郎が1956年にソ連に対して要求したのは歯舞群島、色丹島の２島のみでなく、国後島、択捉島を含む四島だったと切り返しているのだ。1956年当時と比べ、日本の国力は強化されているのだから、平和条約締結にあたってロシアはもっと譲歩しろと迫っているのである。
ここでもう一度、日ソ共同宣言（1956年10月）で領土に関して規定した第９項を見てみよう。
〈日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
ソヴエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴェト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。〉
もし、歯舞群島と色丹島の二島が返還されるだけで、北方領土問題が解決するのならば、鳩山一郎総理は1956年に日ソ平和条約を締結することができた。日本政府としては、歯舞群島、色丹島に国後島と択捉島を加えた四島の返還を要求したので、交渉がまとまらず、外交関係の回復を先行させるという共同宣言方式をとることに日ソ両国が合意したのだ。
1991年12月にソ連は崩壊した。ロシアは国際法でいうソ連の継承国なので、ソ連国家の権利義務をすべて継承する。それだから、日ソ共同宣言も現在のロシア連邦に継承されているのである。
ニューヨークの首脳会談に対するロシア側の反応も好意的だ。ロシア大統領公式ＨＰが次のようなメドベージェフ大統領の発言を紹介している。
〈貴総理はロシアについてよく知っておられる。私の見解では、このことが、両国の貿易経済面や人道面だけでなく、他のすべての問題を含む協力の潜在力を発揮させることに貢献する。ロシア側としては、日本とすべての問題について話し合う用意がある。協力に関する諸問題だけでなく、もっとも困難な諸問題についてもだ。それだから、何を話すかについて貴総理の御指示を待つ。話を始めよう。それが両国にとって重要と思う。〉
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